2008年02月20日

「丹精という物づくりの勇気」

「丹精で繁盛 〜物づくりの現場を見にゆく」(ちくま新書 瀬戸山 玄:著)を、移動中の電車の中で読み終えて、しばらく余韻にひたってしまいました。
いい本です。凄くいい本なので、いてもたってもいられなくなってしまい、ご紹介を(笑)。



丹精で繁盛 〜物づくりの現場を見にゆく〜 (ちくま新書 693)

「丹精」という言葉、確かに最近はあまり聞かないし、使われなくなったように思います。
「丹精とは『まごころをこめて物事をすること』。」
「受け止める相手の立場を思い、自分から一生懸命に手足を動かして、できる限りを尽くす。丹精こめた物は口にすればおいしく、使えば使うほど体によく馴染む。そうした物を生みだせる人の心の奥行きと行動力を、丹精というのだと、私なりに理解してきた。」
(以下、「太字」部分は、本書より引用)


それに代わって流行語のように使われるようになったのが、「こだわり」という言葉だと、著者の瀬戸山さんはおっしゃられています。
「(こだわりとは)本来、小さな事柄に執着して融通がきかないことをさす。」「こだわりは狭く、丹精は広い。」

これは、自分にとっても、耳の痛い話ですが、そこは余談として。


東京の街の中、世田谷で完全無農薬の有機栽培を行われ、パイオニア的存在として知られる大平農園を最初に紹介しながら、瀬戸山さんが「『丹精』の条件」として挙げられているのが、次の4つです。
1.熟知(作物として野菜の質を熟知している)
2.独創性(大勢をしめるやり方に目を奪われずに本質を求めている)
3.交歓(食べる人の喜ぶ顔が思い浮かべられる)
4.地域重視(何よりも地域を優先して販売している)

グローバリズム化の巨大な波に押し流され、目先の利益にとらわれて、いかに多くのものが失われてきたか。日本中の様々なジャンルで、丹精、という心も言葉も失われつつある背景を、丁寧すぎるくらいに解説しながら、崩壊しかけた物づくりの現場から、新たな活路を見出してきた方々の紹介は、力強い説得力があり、そこに可能性が感じられます。

特に私が、心臓がばくばくするくらい印象深かったのは、造船の金属加工技術で建築の分野に新風を巻き起こした、高橋工業の高橋和志さん。激しい苦悩ともがきの日々、そして情熱的なまでの飽くなき探求から、屈指のカリスマ左官と呼ばれるまでになった、挾土秀平さん。言葉の一言一言すら、圧倒的な存在感を持って、ひしひしと届いてきます。


これからのものづくりに、どう取り組んでいったらいいのか。

厳しい現実や逆境にも向かい合い、苦悩し、もがき。試行錯誤と努力を重ね、失敗も繰り返し。それでも挑戦を繰り返し、新たな活路を見出すものが、未来の可能性を開いていく。
もはやそれは、ものづくりに限らない、生き方そのものでもあるかもしれません。
(ちょうど、茂木健一郎さんの「超一流の仕事脳」でも、「生きる情熱からしかイノベーションは生まれない」という記事がありました。)

この本には、よくあるHow to 本のように、「こうすれば成功する!」なんていう、安易な答えはもちろんありません。(それこそ、小手先のテクニックで、目先の小さな利益に右往左往するようなものかもしれません。)
けれどもきっと、大切にしていきたいものは何かを、それぞれの捉え方で感じられることだと思います。
興味がありましたら、ぜひお勧めします。イチオシの本です。


最後に、後書き前書きが前後してしまいますが、著者の瀬戸山さんの言葉を引用させて頂きます。
「彼らに共通するのは、『つながるよろこび』を生みだす種として、丹精な物づくりを心がけてきた勇気と覚悟である。別な言い方をすれば、『いつまでも、よろしく』という信頼感ではないだろうか。」
「四つの基本(熟知、独創性、交歓、地域重視)と照らして、勇気ある『丹精』が持っている未来への鍵と可能性を再発見してほしい。」



【付記】
日経ビジネスオンラインで紹介されていた書評でこの本を最初に知り、これは!と思って購入し、一気に読みました。ご参考までに、その時の書評はこちらです↓。

日経ビジネスオンライン 毎日1冊!日刊新書レビュー 
 誰のためのものづくりか〜『丹精で繁盛』 瀬戸山玄著(評:朝山実)


posted by Metal_NEKO at 22:24| Comment(4) | TrackBack(0) | Craft・Design | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
「こだわりは狭く、丹青は広い」。いい言葉だ。付け加えるなら、丹青は深い。深さを極めようとする意志が一番大事だと思います。では。
Posted by 飯野 at 2008年02月21日 16:35
飯野先生、こんにちは!
最近、あまり本を読めないままだったのですが、久々にいい本に巡り会えた気がしました。
狭さ、広さ、深さ・・・。技術はもとより、心のありようや置き所を端的に表しているように感じました。

何のために作るのか、誰のために作るのか。
そこから始まり、そこに尽きるのかもしれないと思ったりもします。
Posted by Metal NEKO at 2008年02月21日 22:12
物作りする上での心得の言葉ですね。

「丹精」
自分にはまだまだ軽々しく口には出来ない重みのある言葉です。
Posted by たまご王子 at 2008年03月05日 23:39
たまご王子さん、こんにちは!

自分ももちろん、まだまだ遥かに遠く感じます。
その心得を目指して、心がけていきたいと思えました。

あ、でもやっぱり、自分で口にするような言葉ではないようですね。
ちょっと長いですが、本書の最初にも、こんな風に書かれていました。

「西欧的なギブ&テイクの間柄とは大違いで、すぐさまそこに見返りを求めるソロバン勘定でないのがいい。『まごころをこめて物事をすること』の『まごころ』の部分には元々、値札のつけようがない。別な言い方をすれば、それは暮らしの現場で長く無意識に大切にされてきた、無形文化財のような『静かな思いやり』や『信念』なのだろう。だから、『丹精こめました』と、自分で自慢するような族(やから)は怪しいし、やはり野暮で恥ずかしい。」
(本書より引用しました。)

また余談ですけれど、その後に紹介されている、「『こだわり』という奇妙な流行語」という文章も、考えさせられるような、ドキッとしてしまうような、ちょっと毒のあるようでいて、でもどこか何か面白さも感じられるような、そんな書き方でした。

「こだわりという語感には、『すごいだろう!』という子どもじみた自己満足の匂いや、まるで水増し請求書を勝手に押し付けられたような、厚かましさがいつもまとわりつく。」
(これも本書から引用です。)

どちらの言葉も、心のありようも、受け止めて考えて、それでこれからどう向かい合っていくか、ちゃんと考えていきたい、と思います。

Posted by Metal NEKO at 2008年03月06日 21:51
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